アクサンシルコンフレックスの正体:その意味と役割
知ってると便利なアクサンシルコンフレックス豆知識
フランス語を勉強していると必ず出会う、この三角屋根の記号→"^"、フランス語でアクサン・シルコンフレックス(accent circonflexe)と言います。アクサンシルコンフレックスはフランス語の母音(a, e, i, o, u)の上に付く記号で、その見た目から、petit chapeau(小さな帽子)とも呼ばれたりします。
先週のフランス語の授業で、une tâche(仕事)という単語の話になったときのこと。先生が、アクサンシルコンフレックスについてこんなことを教えてくれました。
「アクサン・シルコンフレックスは、昔そこにsがあった名残なんですよ。」
正直、目からウロコが落ちる思いでした。今までフランス語を勉強していて、誰もそんなこと教えてくれなかった!しかしながら、実例を挙げていくと、「確かに!」と思えてきます。
例えば、上のune tâcheに対応する英単語はtask。他にも、un hôpital(病院)→hospital、une fôret(森)→forest、une bête(獣)→beast、une côte(海岸)→coast、un maître (主人)→master、une île(島)→islandなどなど。。。枚挙に暇がありません。
これ、知ってたらめちゃくちゃ便利ですね。私、いつもun château(城)という単語のどこにアクセント記号を付けるのか分からなくなってたんですが、英語のcastleという単語からsが落ちたと考えると、aにアクセント記号を付ければいいんだ!ということが一発で分かります。
逆も然りで、例えばune conquêteという単語に出会ったとき。これだけだと意味が分からなくても、アクサンシルコンフレックスの後ろにsを補ってみると、英語のconquest(征服)に似ている!というところから、意味を推測することができます。
いやー、良いことを知りました。
もっと詳しく、アクサンシルコンフレックスが使われる3つのケース
アクサンシルコンフレックスに興味が出てきたのでもう少し突っ込んで調べてみると、この記号が使われるのは主に以下の3つのケースがあるということが分かりました(諸説あります)。
- 現代フランス語以前からの綴りの変化を示すため(上のsの欠落もこのパターン)
- 母音a, e, oの発音の変化を示すため
- 同音異義語の区別を示すため
それぞれ少しだけ詳しく見ていきましょう。
1. 現代フランス語以前からの綴りの変化を示すため
上の説明では、「アクサン・シルコンフレックスは昔そこにsがあった名残」と書きましたが、より正確には、「ラテン語から古フランス語→中世フランス語→現代フランス語へと移り変わる中で、綴りの変化(言語学的に言うと、音消失)があったことを示すための記号」と言った方が良いようです。上で挙げたs以外にも、綴りが変化したことを示すためにアクセント記号を使う単語があるからです。
例えば「青白い」という意味の形容詞pâle。これは、ラテン語のpallidusという単語が変化したもの。lが2つあったのが1つに減ったことを示す印としてアクセント記号を付けているようです。ちなみに、un hôpital(病院)の基となったラテン語はhospitalis、une forêt(森)の基となったのはforestisというラテン語単語です。
2. 母音a, e, oの発音の変化を示すため
次にアクサンシルコンフレックスが使われる場合として、母音a, e, oの発音の変化を示す目的があります。典型的な音の変化は以下の通りで、いずれもやや長母音気味の発音になる傾向があります(↓の[ ]内は対応する発音記号)。
a [a]→ â [ɑ] : より唇を丸めた"ア”の音になる
e [ə] / [e] → ê [ɛ] : 口を開け気味の"エ"の音になる
o [o] → ô [ɔ] : 口を開け気味の"オ"の音になる
なお、アクサンシルコンフレックスがiとuの上に付いた場合に発音に影響を与えることはありません。
3. 同音異義語の区別を示すため
3つ目の用法は、綴りが同じで意味が異なる単語を区別する目的です。このパターンが一番わかりやすいですね。以下にいくつか例を挙げます。
du(部分冠詞) と dû(動詞devoirの過去分詞形)
jeune(形容詞”若い”) と jeûne(男性名詞”断食”)
mur(男性名詞”壁”) と mûr(形容詞”熟した”)
sur(前置詞”~の上に") と sûr(形容詞”確かな”)
アクサンシルコンフレックスをめぐる論争
と、このように、アクサン・スィルコンフレックスが使われる3つのパターンを見てきましたが、1のパターンで疑問に思ったのは、なぜ綴りの変化の印を後世まで残しておく必要があるのか??ということ。外国語学習者にとっては語源を推測するヒントになるので助かるっちゃ助かりますが… 日本語の場合はわざわざ古語からの変化の印を残したりはしませんし、不思議です。
と思っていたら、実際に、実質意味を持たないアクサンシルコンフレックスを無くそう!という運動があったようです。
↓は2016年2月のBBCの記事ですが、アカデミー・フランセーズが、paraître(現れる)やcoût(コスト)など、「有っても無くても単語の意味や発音に影響を与えないアクサンシルコンフレックスを無くす」という綴り字改革を学校教育の場に適用することを発表したというものです。
これに対して、「フランス語」というものに強い執着を持つフランス人がめちゃくちゃ反対している、ということが書かれています。結局この改革は断行されたようですが、依然として古い綴りに愛着を持っている人は多いのかもしれません。
とまぁここまでいろいろと調べてきて、これまでアクサン・シルコンフレックスに対して持っていた苦手意識がだいぶ薄まってきたように感じます。理解を深めるのは大事ですね。未だにアクサン・テギュとアクサン・グラーブの違いもよく分かっていないので、今度はこの2つについても調べてみようかな…
ちなみに今回の記事を書くにあたって、以下のサイトを参考にさせていただきました。感謝。
Circumflex - Accent circonflexe - Lawless French Pronunciation
L'accent circonflexe : quand le mettre et pourquoi ? | Le français entre quat'z'yeux
フランス語のアクサンシルコンフレックスが持つ3つの意味 | フラ勉-フランス語を勉強するサイト
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